「育児・介護休業法」内容と10月1日施行の改正ポイント
1. 育児・介護休業法とは ~目的と基本枠組み
正式名称:育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(略して「育児・介護休業法」)
目的
この法律の主な目的は、子育てや家族の介護と仕事を両立できるよう制度面で支援することです。少子高齢化、働き手の減少、ジェンダー平等、離職の抑制などを背景に、制度の実効性を高めようとしています、
基本的な制度枠組み(従来からの主な制度)
以下は、改正前から存在していた代表的な制度です:
制度名 | 概要 | 対象者・条件 | 目的・特徴 |
育児休業 | 子どもを養育するために、一定期間、仕事を休む制度 | 一定の勤続要件などあり | 出産後の母親だけでなく父親の取得も可能 |
育児目的休暇等 | 短期間の育児支援を目的とした休暇 | 会社が設ける制度 | 育児時の短時間の支援などに使いやすい制度 |
看護休暇(子の看護休暇) | 子が病気・けがをした際、世話・通院等のために取得できる休暇 | 年間で上限日数あり | 短期間で使える休暇制度 |
所定外労働等の制限 | 子どもを養育する労働者に対して、残業・深夜業の免除・制限を請求できる制度 | 対象年齢が限定されていた | 育児期間中の負担軽減を図る |
介護休業・介護休暇 | 家族の介護を行うための一定期間の休業や休暇 | 一定条件あり | 介護を理由とした離職防止を意図 |
これら制度は、育児・介護と仕事を両立したい労働者にとって「使いやすさ」や「対象範囲」が実態に合っていないという指摘もあり、今回の改正で見直し・強化が図られています。
2. 2025年改正の全体スケジュールと全体像
この改正は、段階的に施行される方式が採られており、主に次のようなスケジュールになっています(ただし政令等で日程が定まる箇所もあり):
- 2025年4月1日:改正のうち、多くの育児・介護関連措置がこの日から施行
- 2025年10月1日:残りの改正規定(主に柔軟な働き方措置、意向聴取義務など)が施行される予定
このような段階実施の理由としては、制度設計や企業の体制準備に一定の猶予を与えることが挙げられています
改正の主なテーマは、大きく以下の3分野に整理できます:
- 子の年齢に即した柔軟な働き方の実現
- 育児休業取得状況等の公表・計画制度の強化
- 介護対応・介護離職防止の環境整備
4月施行分・10月施行分を併せて理解しておくことが重要です。
3. 2025年4月1日施行の改正ポイント(先行施行分)
まず、4月1日から既に施行されている改正から押さえておきましょう。これらが10月1日改正と連動する基盤となります。
(1) 子の看護休暇(改称:子の看護等休暇)の見直し・拡充
- 名称を「子の看護休暇」から「子の看護等休暇」に変更
- 取得理由の拡大:従来は「病気・けが」「予防接種・健康診断」の場面に限られていたが、学級閉鎖等による休校・行事(入園・入学式、卒園式など)参加も対象に含まれるようになる
- 対象となる子どもの範囲の拡大:従来「小学校就学前の子まで」だったものを、小学校3年生修了までに拡大
- 雇用期間6か月未満の労働者も除外できなくなる:以前は労使協定によって「勤続6か月未満」の労働者を対象外とすることが可能だったが、この除外規定を廃止
- 取得上限日数は変わらず:年間5日(子が2人以上なら10日)という上限は現行制度と変わらない点に注意
この見直しにより、子どもの学校行事・臨時休校などの場面でも介護の必要性が認められ、取得しやすい制度になることが狙いです。
(2) 所定外労働(残業・深夜業等)の制限対象範囲の拡大
- 従来、3歳未満の子を育てる労働者が制限請求できる対象だったのを、小学校就学前の子を育てる労働者まで拡大
- すでに、時間外労働・休日労働・深夜業の制限は「小学校就学前」まで対象の規定もあったが、これまでの所定外労働の制限の範囲(請求可能な制度)を整備する形
- つまり、残業免除を請求できる範囲が広がることになります。
(3) 短時間勤務制度(3歳未満)に代替措置としてテレワークを追加
- これまで、短時間勤務制度を適用除外する際には、代替措置として「育児休業に準ずる措置」や「始業時刻変更」などが求められていた
- 今回の改正では、テレワークを代替措置の選択肢に追加
- ただし、代替措置適用は「短時間勤務制度を設けることが難しいと認められる業務がある場合」といった要件付きであり、労使協定の締結が前提になる点に注意
(4) 育児のためのテレワーク導入(努力義務化)
- 3歳未満の子を養育する労働者が、テレワークを選択できるように措置を講ずることを事業主に対して努力義務とする規定が設けられます
- 努力義務とは、必ず義務化ではないが、制度設計や検討をする方向性を示すものです
(5) 育児休業取得状況の公表義務の拡大
- これまで、従業員数1,000人を超える企業にのみ、公表義務があったが、300人超の会社にも対象拡大
- 公表すべき内容は、男性の育児休業取得率、または育児休業等と育児目的休暇の取得率など
- 公表タイミングも、「前年度終了後おおよそ3か月以内」などの規定が設けられる
(6) 介護対応の制度・環境整備
- 介護休暇取得要件の緩和:従来、「雇用期間6か月未満」者を除外できる規定があったが、この除外を撤廃
- 両立支援制度(介護休業・介護関連制度)を利用しやすくするため、事業主は次のいずれかの措置を講じる義務を負うようになります:
① 研修の実施
② 相談窓口の設置
③ 利用事例の収集・提供
④ 利用促進方針の周知 - つまり、制度を“作るだけ”ではなく、利用しやすい環境を整えることが求められます
また、介護休業・休暇に関する制度の個別周知・意向確認義務も設けられています(介護を理由に申し出があった際)
4. 2025年10月1日施行の改正ポイント(第2弾)
4月の改正で基盤が整えられたのに続き、10月1日には以下のようなより踏み込んだ義務化規定が有効になります。
(1) 柔軟な働き方を実現するための措置の義務化
- 特に、「3歳以上~小学校就学前の子を育てている労働者」に対し、企業は以下の5つの措置から2つ以上を選択し、制度として設けなければならない(従業員が選んで利用できるように設計する):
1. 始業・終業時刻の変更
2. テレワークの導入
3. 保育施設の設置・運営等
4. 短時間勤務制度
5. 新たな休暇制度(たとえば育児両立支援休暇など) - 労使協定や過半数代表または労働者代表の意見を聴取することが要件となる可能性あり
- 労働者は会社が設けた複数の措置の中から、1つを選ぶことができるようになります
この改正により、「3歳以上であるが学校に通っていない子どもを育てている」働き手に対しても実質的な支援の選択肢が提供されることになります。
(2) 仕事と育児の両立に関する意向聴取・配慮義務
- 企業は、妊娠・出産、子が3歳になるまでの期間において、事前に労働者に対して個別の意向聴取(ヒアリング)を行う義務を負います(面談や書面交付形式など)
- 具体的な配慮措置としては、勤務時間帯の調整、勤務地の見直し、業務量の配慮、両立支援制度の利用可能性の説明や延長などが挙げられる予定
- また、**子が3歳に達する前の時期(たとえば1歳11か月から2歳11か月の期間)**に、制度説明や制度利用意向確認、育児と仕事の状況ヒアリングを行う義務も設けられます
このような義務により、制度を使いやすくするだけでなく、労働者の状況に即した働き方を会社側が把握して配慮する枠組みが法的に求められることになります。
5. 改正後のポイントまとめ ~利用者・企業双方が注意すべき点
以下に、利用者(労働者)・企業(事業主)が特に押さえておきたい注意点や実務対応の観点を整理します。
利用者側にとっての主な影響・注意点
- 小学校3年生修了までの子どもを持つ親も、看護等休暇を取得可能になり、行事や休校対応がしやすくなる
- 残業免除請求の対象範囲が拡大され、より長期間にわたって残業を制限できる可能性
- 短時間勤務制度に代わるテレワークの活用が可能になる場合がある
- 制度の説明や意向確認を企業が行う義務を負うことになるため、自分の希望を伝える機会が増える
- ただし、どの制度を使えるかは企業の準備状況による影響も大きいため、就業規則や制度パンフレットを確認しておくことが重要
企業側(事業主・人事部門)にとっての対応ポイント
- 就業規則・制度見直し
- 10月施行分を含めた全改正を反映させる就業規則及び制度書類を見直す必要
- 特に「柔軟な働き方措置」の制度設計と導入計画を、早めに検討しておくこと - 複数の措置選定と制度構築
- 始業時刻変更、テレワーク、短時間勤務、新休暇制度など、選択肢を複数設け、従業員が選べる形に
- 労働者代表または過半数組合との協議、意見聴取のプロセス設計 - 個別周知・意向確認プロセス整備
- 妊娠・育児期の従業員に対して、個別にヒアリング・制度説明をするための仕組みづくり
- 配慮措置案の検討・記録を残すこと - 公表義務・計画制度対応
- 育児休業取得状況の公表義務の拡大(300人超の企業)に備えた情報収集・公表フォーマット準備
- 次世代育成支援対策推進法に基づく行動計画の策定(数値目標設定・状況把握義務)対応 - 社内体制と周知・研修の強化
- 内部研修、相談窓口設置、利用事例の提供等、制度を実効性あるものとするための社内環境整備
- 管理職や現場への意識浸透を図るための説明会・研修 - 運用開始後のモニタリング
- 利用実績の把握、問題点の洗い出し、改善サイクルを回す体制を持つ
- 意向聴取や配慮措置結果の記録と振り返り
6. まとめと展望(およそ総論的考察)
2025年改正によって、育児・介護休業法は、制度を“ただ設ける”段階から、実際に使いやすく、柔軟に働ける環境を法律で担保する段階へと進化します。特に10月分の改正(柔軟働き方措置、意向聴取義務など)は、単なる制度整備にとどまらず、企業の運用力・配慮力が問われる内容です。
改正の背景には、男女ともに育児参加を促す社会的要請、高齢化・介護ニーズの拡大、そして働き方多様化の潮流があります。これに応じて、労働者は制度を利用しやすくなり、企業は制度整備と運用力強化が求められるようになります。
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[取材・編集 KROW編集部]
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